34歳からはじめる自由帳

あれが好きななにかについて言葉にするブログだわんわん。チャームポイントは誤時脱字。

ホタルイカの沖漬け

 好きな食べ物との出会いは、往々にして幼い頃に食卓に並んだものに決められる。とりわけ、食卓によく並んだものを好きになるということはなくて、あまり並ばなかったけれどもときどき口にできて強い印象が残ったものを食べたいものとして好きになるんだと思う。

 

 ホタルイカの沖漬けが好きだ。でも、ホタルイカの沖漬けを好きになったのは実際に目にして食べて見る前のことだった。

 

 大学生だったおれは、せっかくもらった夏休みをやることもなく昼間は本を読んで夕方はラジオを聞き、水曜どうでしょうを見ながら酒を飲んで寝てを繰り返していた。たまたま聞いていたラジオの深夜の馬鹿力で伊集院がイカの沖漬けが食いたいみたいな話をしていた。沖漬け?沖漬けってなんだ。

 

 伊集院が言うにはイカの沖漬けとはつまるところ漁師料理の一つで、釣りたての生きたイカをしょうゆベースのタレのプールに投げ込む→イカがタレを吸い込む→タレが全身をめぐる→全身がおいしくなりながら死ぬ、というような話だった。

 

 当時は毎日、蕎麦、うどん、そうめんを食べていてめんつゆが舌を支配していた。めんつゆは好き。主に夏しか味わえなかったから。ていうかなんなのあれ、なんであんな薄めてるのにうまいの。不思議!うまいしょうゆ版カルピス!!という感覚だった。だから、いかにめんつゆ吸わせたらうまいんじゃねえのって思った。

 

 イカは歯ごたえとか食いづらさが嫌いだったのだけど、新鮮でめんつゆ味がするのなら食べてみたい。ていうか全身めんつゆ味のイカってなんなの。そんな気持ちを抱いたまましょぼい飲み屋しか行かず、釣りをするほど興味はなかったので沖漬けとは出会えない。そうこうしているあいだに沖漬けはやたらうまい食べ物として心のなかでインフレを起こし、食べたことはないけど大好きな食べ物となっていった。

 

 そうして、社会人になってから初めて食べた沖漬けがホタルイカの沖漬けだった。感想。旨味がすごいけどそんな情報なかったですよね!!!ていうか珍味枠の食べ物だったのかよ。日本酒合いそうだわあ///というわけで、昔から憧れていた食べ物は思っていたのとはぜんぜん違う味で、だからこそ結局虜になったのでした。

 

 親は酒を飲まないので幼少期の食卓とは最も離れたところに行き着いたけど、ただの説明で好きな食べ物ができたという話。

 

 

 

 

 

 

のはなし

のはなし

  • 作者:伊集院 光
  • 発売日: 2007/09/28
  • メディア: 単行本